【連載Vol.3】点滴・検査を“やる/やらない”問題
- 恭祐 昼八
- 4 日前
- 読了時間: 4分

家族の「受け入れの時間」を支える対話と設計
在宅に移行した直後、家族がもっとも迷うのが**「点滴や検査をするべきか」です。「何かしてあげたい」「原因をはっきりさせたい」という気持ちは、とても自然なもの。一方で、老衰や終末期では、医療が“足し算”ではなく“引き算”で楽になることも多くあります。ここでは、逢縁クリニックが現場で使っている考え方の枠組みと会話の進め方**を紹介します。
1|なぜ迷うのか(迷いの正体)
してあげたい気持ち(罪悪感の回避、ケアの実感が欲しい)
入院での成功体験(点滴で元気になった記憶)
「何もしない=見捨てる」誤解
情報の非対称(医療の負担・副作用が見えにくい)
迷いは“当然”です。理解→納得→選択のサイクルを、何度でもゆっくり回します。
2|「利点/不利益/しない場合」を同じテーブルに並べる
2-1 点滴(補液)を例に
利点
一時的に口渇感が和らぐことがある
薬剤投与のルートを確保できる場合がある
不利益(老衰・終末期で起きやすい)
むくみ・肺うっ血・呼吸苦
痰が増える→吸引回数↑
針の痛み・固定の違和感、拘束感
しない場合のケア
口腔湿潤(濡れガーゼ・保湿ジェル・氷片・ゼリー)
楽な体位(30°側臥位など)で呼吸のしやすさを確保
少量・好きな味を“食べられる時に”
結論:**「楽になる見込み>負担」の場面だけ、少量・短期間で検討。それ以外は“やらない勇気”**がご本人を楽にします。
2-2 検査(採血・画像)を例に
利点:治療で改善が見込める可逆的な原因(脱水・感染など)を拾える
不利益:移動負担、穿刺痛、結果が治療につながらない場合の落胆
しない場合:**症状に合わせた緩和(痛み・不眠・不安)**を優先、生活を整える
検査は**「治療方針を変える材料になるか」で判断。答えが今の暮らしを良くする**ならGO、そうでなければNO。
3|判断フレーム:4つの質問
いまの目標は?(原因特定/延命/苦痛の軽減/家で穏やかに)
期間は?(数日で結果が出る介入か、長期の負担か)
負担は?(痛み・移動・家族の疲労・夜間の不安)
代替は?(点滴以外の口腔ケア、検査以外の観察・対処)
4つに○×をつけるだけで、家族の納得度がグッと上がります。
4|“小さな介入”が効くとき
口腔ケア:湿らすだけでも咽頭反射が落ち着き、むせが減る
体位調整:クッションで楽な角度を保つと、呼吸・眠り・むせが改善
環境調整:照明を落とし、声かけをゆっくりに(せん妄の予防)
不安ケア:**「困ったらまず電話」**の約束と、連絡先の可視化(冷蔵庫へ)
5|現場で使える“声かけ”の言葉
「無理に食べさせないことも、やさしいケアです。」
「点滴は効くときもありますが、息が苦しくなることも。 今日の体に合う方法を一緒に選びましょう。」
「やる・やらないは、いつでも変更できます。迷ったら立ち止まりましょう。」
「しないと決めた後も、“できるケア”はたくさんあります。」
6|ミニ事例(匿名加工)
Aさん(90代):食べず飲まず。家族は点滴希望。→ 利点/不利益/代替を説明。口腔湿潤+体位調整+少量ゼリーで経過観察。数日後「むせが減り、機嫌よく穏やかに」。点滴は見合わせ。
Bさん(80代):発熱・尿量低下。採血・尿検で感染症を示唆。→ 短期の補液+抗菌薬で改善、自宅生活へ復帰。
同じ“食べない”でも道は異なる。 だから評価と対話が要です。
7|合意の“見える化”が不安を減らす
在宅プラン・サマリーに
「点滴」「検査」をやる/やらない/条件つきで明記
連絡先・夜間フロー・“揺れた時の決め方”を記載
冷蔵庫の連絡カードを更新(誰に/何を/どうする)
8|Q&A
Q. 点滴をしないと喉が渇いてかわいそうでは?
A. 口腔湿潤で“渇きのつらさ”は多くが改善。点滴は息苦しさを悪化させることも。
Q. ゼリーやアイスは?
A. 少量・好きな味を“食べられる時に”。むせが強ければとろみも検討。
Q. 検査をしないのは見捨てること?
A. いいえ。今の暮らしを良くしない検査なら“しない”が適切。 治療に結びつく検査は短期で行い、すぐ生活に還元します。
まとめ
“正解はひとつ”ではありません。利点/不利益/しない場合を並べ、その人の今日に合う選択を重ねること。それが在宅医療の**「支える」**という仕事です。迷ったら、短い相談からはじめましょう。私たちが伴走します。
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