【老衰終末期】“やらない勇気”が楽にする|終末期の点滴・検査の決め方
- 恭祐 昼八

- 9月11日
- 読了時間: 4分

終末期になると、**「点滴で元気にできないか」「検査で原因をはっきりさせたい」という思いが自然に湧きます。一方で、体がしぼんでいく時期は“足し算の医療”より“引き算の医療”**が本人を楽にすることが多くあります。ここでは、**利点/不利益/“しない場合のケア”**を同じテーブルに並べ、家族と一緒に決めていくための実践ガイドをまとめます。
1|まず理解したいこと:体の「需要」が変わる
終末期は、代謝が落ち、空腹や口渇を感じにくくなります。この段階で点滴や検査の負担が増えると、結果として息苦しさ・むせ・不穏などのつらさが上がることがあります。
“良かれと思っての足し算”が、本人の苦痛を増やすことがある——ここが最重要ポイント。
2|点滴(補液)をどう決める?
観点 | やる場合の利点 | 予想される不利益(終末期で起きやすい) | しない場合のケア |
体の楽さ | 一時的に口渇が和らぐこと | むくみ・肺うっ血・呼吸苦/痰増加→吸引回数↑/穿刺の痛み・拘束感 | 口腔湿潤(濡れガーゼ・保湿ジェル・氷片・ゼリー)、楽な体位(30°側臥位) |
目的 | 薬剤投与ルートが必要なとき | 針固定による不快、夜間の寝苦しさ | “好きな味を少量だけ、食べられる時に”の楽しみを優先 |
結論のコツ
「楽になる見込み>負担」のときだけ、少量・短期間で検討。
それ以外はやらない勇気が、結果的に穏やかさを守ります。
3|検査(採血・画像)をどう決める?
GOの条件:結果がすぐ治療方針を変える(例:感染症で抗菌薬を選ぶ/明らかな脱水で短期補液)。
NOの条件:結果が出ても生活が良くならない/負担が大きい(移動・穿刺・待機で疲弊)。
代替:症状ベースの緩和(痛み・不眠・不安の調整)、環境整備、体位・口腔ケア。
4|迷ったら使う「4つの質問」
いまの目標は?(原因特定/延命/つらさの軽減/家で穏やかに)
期間は?(短期で効果が見える?長期の負担?)
負担は?(痛み・移動・夜間の不安・家族の疲労)
代替は?(点滴以外の湿潤・姿勢、検査以外の観察と対処)→ 4つに○×を付けるだけで、家族の納得度が上がります。
5|“しない”と決めたあとにできるケア
口腔ケア:保湿ジェル/濡れガーゼ/氷片・ゼリー(少量)
姿勢:クッションで30°側臥位→呼吸・むせ・眠りが改善
環境:照明を落とし、声かけはゆっくり・短く
不安ケア:連絡先がすぐ分かるカードを冷蔵庫に/“まず一本の電話”の約束
楽しみ:音楽・匂い・手のぬくもり——“感覚のごちそう”を増やす
6|現場で使える声かけ
「無理に食べさせないことも、やさしいケアです。」
「点滴は効くときもありますが、息苦しくなることも。今日の体に合う方法を一緒に選びましょう。」
「やる/やらないはいつでも変更できます。迷ったら立ち止まりましょう。」
「“しない”と決めても、できるケアはたくさんあります。」
7|ミニ実例(匿名)
90代、食べず飲まず。家族は点滴希望。発熱・痛みなし、老衰進行。→ 利点/不利益/代替を並べて相談。口腔湿潤+体位調整+少量ゼリーを提案、点滴は見合わせ。数日後、「むせが減って機嫌が良い。穏やかな時間が増えた」と家族。
“やらない勇気”が楽にする典型例でした。
8|合意の見える化(不安を減らす道具)
在宅プラン・サマリーに
点滴・検査:やる/やらない/条件つき
夜間の連絡フロー(在宅/往診/救急の目安)
冷蔵庫の連絡カード:誰に・何を伝えるか(“SOS5+3”)
9|Q&A
Q. 点滴をしないと“かわいそう”では?A. 口の渇きは口腔湿潤で多くが改善します。点滴で呼吸苦・痰増が起きると、かえって苦痛が増えます。
Q. 検査をしないのは見捨てること?A. いいえ。生活を良くしない検査なら“しない”が適切。治療に結びつく検査は短期で行い、すぐ生活に還元します。
Q. 途中で考えが変わったら?A. いつでもOK。**“更新可能な合意”**が在宅流です。
まとめ
終末期の点滴・検査は、本人の楽さと家族の納得の両方を守るための選択です。利点/不利益/しない場合のケアを並べ、今日の体に合う最適解を一緒に選びましょう。迷ったら、短い相談からで大丈夫です。
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