高齢者が急に食べなくなったとき|訪問診療での向き合い方と家族の心構え
- 恭祐 昼八

- 8月24日
- 読了時間: 4分

「昨日まで食べていたのに、急に食べない」「水分もほとんど取らない」——。
在宅でよくいただく相談です。感染症や便秘・口内トラブルなど治療で改善する原因が隠れていることもありますが、老衰のプロセスとして自然に起きることも少なくありません。
大切なのは、原因を見極めることと、家族が受け入れていく時間を確保すること。訪問診療の役割はこの“二本柱”です。
まず確認したいチェックポイント
以下のいずれかがあれば、すぐに医療者へ連絡を。
急な発熱・咳・息切れ、強い腹痛や繰り返す嘔吐
意識がぼんやりして会話が通じない、急なふらつき・転倒
尿が極端に少ない/出ない、3日以上の便秘
黒色便・血便、明らかな脱水(口や舌の乾き、脈が速い など)
薬の変更直後(眠気・食欲低下の副作用が出ることがあります)
一方で、熱も痛みもなく、眠る時間が増えた/少しずつ食が細くなったという場合は、老衰のサインであることが多いです。
老衰による「食べない・飲まない」とは
体のエネルギー需要が下がり、空腹や喉の渇きを感じにくくなる段階です。無理に食べさせようとすると、むせ・嘔吐・苦痛につながることがあります。また、「点滴をすれば元気になる」は半分正しく半分は誤解。老衰期はむくみ・呼吸苦・痰が増えるなど、点滴がかえってつらさを増やすことも。ここは**“やらない勇気”**もふくめ、状況に合わせて選ぶ場面です。
家族の心構え:5つのヒント
目的を“元気にさせる”から“楽に過ごす”へシフト
一口でOK:好きな味を“食べられる時に食べられる分だけ”
口を潤すケア:濡れガーゼ・保湿ジェル・ゼリーや氷シャーベットは立派なケア
楽な姿勢を作る:30°側臥位+クッションでむせを減らす
迷ったら立ち止まる:「今日はここまでで十分」と自分を責めない
「無理に食べさせないことも、やさしいケアです」——私たちがよくお伝えする言葉です。
訪問診療でできること
評価(アセスメント):バイタル・診察・口腔・便尿・薬剤の見直し。必要時は採血等で脱水・感染を確認
可逆的な原因の是正:便秘調整、口内炎・義歯不具合の対応、薬の副作用調整
苦痛の緩和:痛み・吐き気・不眠・不安への薬物/非薬物療法
点滴の適否判断:効果と負担を見極め、少量補液など限定的に行うことも
家族支援とACP:図や例えでわかりやすく説明し、**「やること/やらないこと」**を一緒に決めていく
訪問看護と24時間連携:夜間の不安も“誰かが知っている”体制をつくる※頻度は月1回から体調に合わせて調整可
小さな実例(匿名)
90代の方。食が細くなり、家族から「点滴で元気にしてほしい」と依頼。診察では発熱や痛みはなく、老衰が進んだ状態。口腔ケア+少量ゼリー+楽な姿勢を続け、点滴は見合わせ。夜間の不安には電話で伴走し、必要時だけ短時間の訪問。数日後、「無理に食べさせなかった分、機嫌も良く穏やかに過ごせた」とご家族。**“しないことを選ぶ”**ことで穏やかな時間が保てたケースでした。
よくある質問
Q. まったく飲まない日は入院すべき?A. 目的が「治療」か「穏やかさの維持」かで異なります。老衰期は在宅の緩和ケアで十分なことが多く、入院が負担になる場合も。個別にご相談ください。
Q. 栄養ドリンクや市販サプリは?A. むせや腹部不快の原因になることも。少量・好きな味を優先しましょう。
Q. 看取りの相談はいつから?A. 早いほど準備が整い、慌てません。**「迷ったから相談」**で大丈夫です。
まとめ
「食べない・飲まない」は、治す対象のときも見守る対象のときもあります。訪問診療は、体の評価と心の準備を同じくらい大切にし、家族と一緒にその人らしさを守る選択を重ねていきます。不安になったら、短い相談からはじめましょう。
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